結合振動子間の相互作用と引き込み同調の関係

京都大学理学部3回 原田崇広

 課題演習B8の大きなテーマは「時空間の自己組織化」であり、時間次元の自己組織化(周期現象)とその伝播による空間の組織化とを様々な実験によって調べた。自己組織する系の代表的な例としてはベルーゾフ・ジャボチンスキー反応、あぶく振動子や塩水振動子等の結合系、神経ネットワーク等から、蟻の巣のような超個体や種々の人工生命、群れや社会、経済やインターネットに及ぶまで、実に様々なものが挙げられる。

 ここに挙げた例の後半は非常に大規模かつ複雑で、物理学でただちに扱えるようなものではないが、前半のものは反応拡散方程式(や、それに還元できる方程式)でよく表現できる。これらのものはプリミティブには非線形振動子の結合系であると見ることができるが、そこでは「非線形振動子系の引き込み同調」が重要な役割を果たしている。

 引き込み同調で重要になるのはまず同調周波数であり、さらには同調した振動子の位相差や振幅等であるが、ここでは同調した振動子間の位相差に重点を置いた。また、今まであまり研究のすすんでいなかった、負性抵抗を含むネットワークに焦点を当て、似たような性質を持つ他の種類の相互作用と比較した。(例えば最近の研究で、ロブスターの神経細胞同士を負性(電気)抵抗を介して接続し、発火させたところ2つの神経細胞がおおまかには逆相に同調する、ということが知られているが、現象の理論的な解明には至っていない。SynchronousBehavior of Two Couplued Biological Neurons, Phys. Rev. Lett.,81(1998), 5692)

 以上に関して実験を行った。具体的な非線形振動子としてVan derPoll方程式で記述されるようなトンネルダイオード発振回路を用い、回路同士を様々な素子を介して接続し、現れる同調モードを調べた。[詳細

 その結果、負性抵抗を介する相互作用の下では、上のロブスターの神経細胞の例と同じように逆相の同調モードが現れた。逆相の同調モードはこのような増幅による相互作用の他にも弾性を介した相互作用や、慣性体を介した相互作用(この場合はこの慣性体を第3の振動子とみなすことができる)の下であってもみられたが、逆相モードの安定性は負性抵抗>弾性>慣性の順に大きいことが分かった。

 また、3つ以上の振動子を含むネットワークにおいてはすでに知られているようにフラストレーション関数の値が重要であり、また、その値が1である場合は特に系の構造の対称性が重要であることが分かった。

 このように異なる方程式に従うはずの、神経細胞と発振回路という2種類の振動子が負性抵抗を介した相互作用に関して同じ振る舞いをすると言う事実は、両者に共通な特徴に基づいた、同調に関する一般的な理論の存在を示唆しているように思われる。

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